更年期診療
更年期を迎えると卵巣機能が低下し、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少します。それに伴ってホルモンバランスが崩れ、身体や心にさまざまな変化をもたらします。
月経周期の乱れや自律神経の乱れによる不調など、女性の約8割がさまざまな心身の変化や不調を自覚していますが、あらわれる症状やその程度は人によりさまざまです。
身体の不調でお悩みの方、日常生活に支障をきたす方は、ぜひ一度ご相談ください。
更年期によく見られる症状
⚫︎ホットフラッシュ(のぼせ、急な発汗)
⚫︎手足の冷え
⚫︎肩こり ⚫︎腰痛 ⚫︎関節痛
⚫︎倦怠感 ⚫︎めまい⚫︎動悸 ⚫︎頭痛
⚫︎膣のかゆみ・不快感
⚫︎不眠
⚫︎不安感⚫︎気分の落ち込み(抑うつ)
⚫︎イライラ ⚫︎集中力低下 ⚫︎記憶力の低下
症状について
上記の内容の症状を訴えられる方が多く見られますが、症状は少なくとも40-80程度はあると言われています。いわゆる「更年期」は閉経前後のそれぞれ5年間のことを呼び、卵巣からのホルモン分泌が低下してくることが関与していますが、それ以外にも加齢による要因、社会環境による要因、心理的な要因などさまざまな要因が合わさって症状が出現するとされています。
ちょうど、更年期を迎えられる時期というのは、ライフステージの中でご家族にとっても大きな転機や変化が現れやすい時期でもあり、より一層不安定になりやすい時期とも言えます。
しかし、このような症状があればすぐに「更年期の症状」と決めつけてしまってはいけません。更年期の症状と思っていたら、実は他に不整脈や甲状腺疾患、貧血、うつ病、がんなど重大な病気が隠れている場合もあるからです。外来では丁寧に症状をお聞きした上で、診察、血液検査、超音波検査をはじめとして、必要に応じて他の診療科とも協力しながら診断と治療を進めていきます。
他方、卵巣から分泌されている卵胞ホルモン(エストロゲン)の欠乏は、上のような症状だけでなく、骨代謝の低下(→骨密度低下、骨粗鬆症)や脂質代謝の低下(→コレステロールや中性脂肪の増加、動脈硬化)を招き、前者は骨折のリスクに、後者は心筋梗塞や脳梗塞のリスクとなってしまいます。当院ではこれらの観点も併せて、女性の健康全体を考えたきめ細やかな対応を心がけています。
検査・診断
問診、視診・触診(甲状腺や腹部など)、血圧測定、血液検査(貧血、生化学的検査、甲状腺・女性ホルモン検査)、必要に応じて内診・超音波検査などを行います。
除外診断(同じ症状を起こしうる他の疾患を否定すること)のために画像検査を行ったり、他の診療科での検査を提案することもあります。
更年期症状の治療
更年期症状の治療法として、お薬を使った薬物療法とお薬を使わない非薬物療法がありますが、ここでは薬物療法について紹介します。
よく用いられる薬物療法には、以下のものがあります。
ホルモン補充療法(H R T)
卵巣から分泌されていた、卵胞ホルモン「エストロゲン」製剤と黄体ホルモン「プロゲスチン」製剤を用いて、身体の中の女性ホルモンを補充する方法です。現在当院で扱っているエストロゲン製剤は貼付剤(テープ)です。ほてりやのぼせ、発汗といった、いわゆるホットフラッシュなどの血管運動症状に効果が高い方法です。症状を抑えるためには「エストロゲン」のみが必要なのですが、単独だと子宮内膜が厚くなり、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスクを高めてしまうため、子宮のある方には「プロゲスチン」製剤を補う必要があります。またHRTを行ってはいけない方、注意が必要な方もいますので、診察時に丁寧に確認の上使用することにしています。HRTをおこなっている方は、定期的な子宮がん検診はもちろん、乳がん検診も行うことをお勧めしています(乳がん検診は当院では実施しておりません。お近くの乳腺外科等にご相談ください)。
漢 方 薬
身体の中の気(神経)・血(血液)・水(水分、潤い)のめぐりが滞ったり、足りなかったりすることで症状につながるというのが漢方医学の考え方です。これに基づいて、気血水の不調を調整し症状を改善に向かわせるという目的で漢方薬が広く使われています。更年期の症状に対しても多くの方剤が用いられており、当院でも積極的に漢方薬を用いて治療を行なっています。
抗不安薬、睡眠補助薬
不安が強かったり、夜眠れなかったりすることは、日常生活の質を大きく損ないます。上記の治療と併せ、不安をとるお薬や睡眠を改善するお薬を使用することもあります。ただし、専門的な診断・介入が必要と判断した場合は、心療内科やメンタルクリニックなどの専門医をご紹介することもあります。
その他、原因に応じた薬物療法
例えば貧血(一般的に用いられる「脳貧血」のことではなく、血液中の酸素運搬を担うヘモグロビンが足りていない状態)が背景にある場合も、身体のさまざまな不調をきたします。特に女性の場合、慢性的に貧血の状態にある場合もあり、ご自身で気づかれていないことも多くあります。貧血の治療を行うことで、複雑な症状の改善を後押しする場合もあります。